諦めません、勝つまでは

〜♪

「おう、何だよ?」

一声でぴくり、と周囲の空気が変わった。
理由はたったひとつ。

埼玉県選抜メンバーのアイドル、猿野天国が携帯に答えたからだ。


たいしたことではないだろう、と突っ込みも入るかもしれないのだが、今回は違っていた。

それは天国の声が今まで聴いたこともない声色だったからだ。


「…ってそれはお前に任せてただろ?
 ……はぁ?…余計な仕事増やしやがって…追加分きちっと取っとけよ。

 ああ、分かった。早めに終わらすから。
 そっち頼むぜ。沢松。」


沢松…………………………!!


またあいつか!!という十二支の一致した心の声。
誰だそいつは!!という十二支以外の一致した心の声。

両者の怒りの声がしっかりそろっていたことは、神のみぞ知る。



その夜から、夜間人知れず姿を消す天国を、知らぬものは居なかったが。

########


さて、天国の夜間の居所を突き止めたのは件の電話から数日後。

準決勝を終えた晩のことだった。

裏庭近くにある、あまり知られていなかった小さめのロビー…どちらかというと喫煙所に近い場所だった。
勿論健全なる高校球児が近寄る場所とは言い難かったので、今まで気付かれなかったのだろう。


そこを最初に見つけたのは、華武高校1年、御柳芭唐だった。

だが、彼も最初それが天国だとは信じがたかった。



そこにいる天国は、見慣れないシルバーフレームの眼鏡をかけて
似合わないと思っていたノートパソコンを開いていたからだ。


その姿は、洗練されたエリートの空気を醸し出していた。


「…猿野、だよな…。」
御柳自身意外に思えるほどに緊張して、声をかけた。


「あ?…何だ、見つかったか。」
まずったな、という表情で天国は眼鏡を外した。
それでもいつもの猿野天国は現れない。

「…何、してんだよ?こんなとこで。」


天国は膝においていたノートパソコンを閉じる。

「アガースラ。」


「は?!」

意味不明の言葉に、御柳は面食らう。
天国はそれを見て少し笑う。


「それ、作ってたんだよ。まあお前には関係ないハナシだ。」

「な…。」


むか。

「んじゃな。明日も早いぜ御柳くん。」


「って、おい、猿野!」


天国はそれ以上は答えることなく、御柳を煙に巻く。
結局部屋に戻れば、天国は既に夢の中。


(寝つきはの○太かよ…!!)

せっかくのチャンスを逃した御柳は、その日はなかなか眠れなかった。



########

さて、翌日。
相変わらず夜間の天国の居場所を突き止めようとぼそぼそ話す各校の面々をよそに、
御柳は昨日の天国の事を考えていた。
他に先んじて天国の場所を知った。
それは正直に嬉しかった。だが昨日の天国の表情の変貌は気になって仕方ない。

あんな表情ができることも。
パソコンで何かを作れるような知識を持ってた、なんてことも。

昨日天国が言っていた言葉を知れば、もっとあいつが分かるだろう。



とはいっても、パソコンに関連したことでは御柳は最低限以上のことは分からない。
となると…。

情報を独占したいのはやまやまだったが。
その情報を活用できなければ意味はないのだ。


御柳は、活用するべく行動することにした。



「ねー、録センパイ。ちょっといいすか?」
「ん?何だよミヤ、今忙し気…(-"- )」
「実は猿野のことで、ちょっと。」


「マジ気?!(°▽°;) 」

予想通り、情報源は食らい付いてきた。

そして御柳は、昨日の事をかいつまんで話した。



すると…。


「…Agahsura……それを、猿野が…?(〇o〇;)」

予想以上の反応に御柳の方も驚いた。
「知ってるんですか?センパイ…。」

「知ってるも何も…!そだ、牛尾サン!アンタ知ってる気だよね!
 Agahsra…あれはまだ…(◎-◎;)!!」


「?どうしたんだい?朱牡丹くん。」
朱牡丹は相当に動揺していた。

そしてなぜか牛尾に声をかけた。
御柳には状況が全く読めない。

そして説明を聞いた牛尾も驚いた。

「あれはまだ新しいヴァージョンが完成していないはずだ…第一「Agahsura」は一般には出回ってない…。」
「あれを…猿野が…?(O.O;) 」


「ちょっと、どうしちゃったんすか二人とも!
 「アガースラ」って何なんです?!そっから説明してくださいよ!」
御柳は痺れを切らし問い詰めた。

すると、牛尾が答えてくれた。

「『Agahsura』は世界でも1、2を争うとまで言われるほどの高精度のウイルスバスターソフトだよ。
 一般のユーザーじゃなくてビジネス用に使われることが多いんだけど…。
 作成者は不明なんだ。天才的なプログラマーだっていうのが専らの評価になってて…。」

牛尾の答えで、今度は御柳が面食らう。


「……それを…まさか猿野が…?」


「あ、いたいた、牛尾さん!」


「!!」

呆然とするグループに声をかけたのは…沢松だった。

「…沢松くん。」

「沢松!?こいつが?!」

「え?ええ…何、天国になんかあったんすか?」
異常な反応に、沢松は相棒になにかあったのか、と驚く。


「いや、猿野くんはいたって元気だけど…「Agahsura」を作ってたって…。」

その一言に、沢松は表情を変える。


「…バレたんすか。」


「…!じゃあ、ホントに…。」

「…ったく…合宿中にしあげ頼んだオレもバカでしたけどね…。
 黙っててくださいよ。頼みますから。」

「それ相応の口止め料は払うからさ。」

「わ!」
「猿野?!」
「猿野くん!!」

ぬ、と沢松の背後から天国が現れる。


「あまくに〜〜お前もドジ踏むんじゃねえって言っただろ?」
「へーへー、オレも悪かったよ。でも仕事はすませたぜ?」
自分の背に甘えるように圧し掛かってきた天国に、沢松は愚痴をもらす。

…愚痴というよりものろけに聞こえるのは…気のせいじゃないだろう。


その状態を見ていた3人は、驚きに流されていた怒りを思い出す。


「「「……。」」」


「さ、そろそろ練習だろ。そちらさんと行ってこいよ。」
「もーちょっと労われよな…。」


空気が甘味を帯びだした。


「じゃ、コレで。」

「ん。」


ちゅ。


(((あ〜〜〜〜〜〜!!!!)))


地雷が踏まれた。


##########

「と、いうわけで…。」
「…全員失恋決定かよ…。」
「……殊勝だな…お前らにしては。」
「…諦めるなんて思ってないけど?」
「拙者も同感だな。」


「……いくらでも隙を見つけてやる…。」


新たな決意をする多数であった。



余談ではあるがしばらくして「Agahsura」が発売されたあと、
埼玉県選抜メンバーのいる各校の野球部に匿名で多額の寄付が寄せられたそうだ。

後日「Agahsura」のプログラマーは日本の高校野球好きという噂が広がったそうである。



                                                  end


めでたくなしまとまりなしな文章でした…!
そしてどれだけお待たせしたことでしょうか…!凛さま、大変申し訳ございませんでした!!

しかも今回合宿中のハナシなのにほぼ原作のストーリー丸投げにしてしまいました…。
人も少なく、申し訳ありませんでした!!

余談ですが「Agahsura」はインド神話の悪魔から名をもらいました。
大蛇に化け、口をあけて英雄が入ってくるのを待ちかまえたらしいです。


凛様、素敵なリクエスト本当にありがとうございました!!



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